賢治さんは「羅須地人協会」を設立したころ、あまり沢山のレコードを買ってしまい次のレコードを買う資金調達を考え「レコード交換」を考えました。今でいう「リサイクル」です。その時の「レコード交換用紙」が残っています。曲名、演奏者、盤面ラベルの色、枚数、売価などが一覧表になったものですが、記載されている15項目のレコードと同じSP盤を捜すとなるとこれは容易ではありません。賢治さんが持っていたレコードですから当然聴いていた曲ということで「賢治ファン」にとっては興味深いものです。
その1枚に、コロンビア 青 パデレウスキー ミヌエット、リスト ベニス ト ナポリ ピアノ ヂョゼフ ホフマン 十二インチ 一枚 傷アリ 新品の価格五円 売価四〇銭 というのがあります。
リスト「ベニス ト ナポリ」を調べてみると
「ヴェネツィアとナポリ Venezia e Napoli (Liszt) / Josef Hofmann Columbia A-5915
という事になります。
「ヴェネツィアとナポリ」は、リストのピアノ独奏曲集「巡礼の年」で、《第1年:スイス》《第2年:イタリア》《ヴェネツィアとナポリ(第2年補遺)》《第3年》の4集からなっていて、《ヴェネツィアとナポリ》は、《巡礼の年 第2年 イタリア》の追加曲として同時期(1837年‐39年)に作曲されました。リストがヴェネツィアとナポリで耳にしたと思われるナポリ民謡「低い窓」(イタリア民謡 作者不詳)の旋律からインスピレーションを受けていると考えられています。
そのナポリ民謡「低い窓」が主題歌として使われているフランスの作家エクトル・マロ作の「家なき子」Sans famille は、1903年五来素川訳『未だ見ぬ親』(東文館,1903)として日本でも出版されましたが、賢治が小学校3年の時(1905年)に担任教師の八木英三教諭に読んでいただき、賢治はこの本が大好きだったと云われています。「ポラーノの広場」の飼っていた山羊が逃げるという設定はこの『未だ見ぬ親』が発想の源になっているのでは?とか、この主題歌「低い窓」のメロディーは賢治の脳裏に刻まれたメロディーとして「星めぐりの歌」の着想と繋がっているのではないかとの見方もあります。
どんな曲か興味が沸いてきます。佐藤泰平さんが一昨年リリースした7枚組のCD「宮沢賢治と音楽」(パイプオルガンの会発行)のCD1枚目-5にはこのことが紹介されていて、泰平さんのオルガン演奏で「低い窓」と「星めぐりの歌」の旋律によってその類似性を説いています。私の印象ですが、似てはいるけど・・・ん・・・、と云った感じです。著作権上の盗作には触れない程度かな?おそらく小学のころから頭の中にこびりついていたメロディだったんでしょう。
写真の 「ヴェネツィアとナポリ Venezia e Napoli (Liszt) / Josef Hofmann Columbia A-5915 盤を聴くと、やはり「星めぐりの歌」を連想させるメロディを聴きとることができます。この音源については次作6枚目のCD・復刻録音で聴く宮沢賢治が出会った音楽「(仮)サムシングエルス」(発売日未定)の中でお披露目します。