宮沢賢治とウィリアム・モリスの思想に類似するコミュニタリアリズム(共同体主義)を唱えてきた大内秀明さんが1月9日死去、91歳。

 東北大学名誉教授の大内さんの専門は日本経済論。マルクス経済学や社会民主主義の論客として資本主義社会の大量生産や大量消費を批判してきた。大内さんのこういった論点が宮沢賢治の「農業芸術概論綱要」や英国の思想家ウィリアム・モリスに共通していることは以前から薄ら薄らと感じてはいた。2022年9月発刊の著書『甦るマルクス 「晩期マルクス」とコミュニタリアリズム、そして宮沢賢治』(社会評論社)では、補論「東北・土に生きるコミュニタリアン宮沢賢治」として本紙の四分の一を割いて論じている。コミュニタリアリズム(共同体主義)の考えは、賢治の「ポラーノの広場」がテーマとして掲げている「産業組合」を作るという構想そのものでもある。

 

・・・とうとうファゼーロたちは立派な一つの産業組合を作り、ハムや皮類と酢酸とオートミールはモリ―オの市やセンダードの市はもちろん広くどこへも出るようになりました。------『ポラーノの広場

 

『いまやわれらは新たに正しき道を行き

われらの美をば創らねばならぬ

芸術をもてあの灰色の労働を燃やせ

ここにはわれら不断の潔く楽しい創造がある

都人よ 来たってわれらに交れ

世界よ 他意なきわれらを容れよ』------ 宮沢賢治「農民芸術概論綱要」

 

『芸術の回復は、労働に於ける悦びの回復でなければならぬ』 ------ W.モリス

 

 大内さんは2005年11月、自らの理想卿を仙台市・作並の奥深い森に賢治とモリスの思想を託して「賢治とモリスの館」を開館(現在閉館)させた。また2013年には有志が運営委員になり、仙台市内のオフィスに、「仙台・羅須地人協会」をスタートさせ定期的にセミナーを開催し啓蒙活動に取り組んできた。

 そして昨年9月には「宮沢賢治賞奨励賞」を受賞。直接の受賞対象作品は、著書『甦るマルクス-「晩期マルクス」とコミュニタリアニズム、そして宮澤賢治』だが、選考理由として、「大内氏はこれらの基盤にある共同体思想が晩期マルクスと共通するものであることを指摘し、さらにそれは現代資本主義社会の問題やコロナ危機を乗り越える方途ともなる可能性を示唆している。」と記されている。

受賞にあたって大内さんは「奨励賞だからもっとこれからも励みなさいということですね」と語ったそうだ。

 どんなイデオロギーも年を重ねると時代に合わない点が生じてくるのは当たり前である。現体制のさびたルールは素直に受け止め修正すべきである。大内さんが唱えるコミュニタリアリズム(共同体主義)はこれからの時代に新たな指針を与えてくれると私は思う。ご冥福をお祈りするとともに大内さんの論点を継承していきたい。

 

甦るマルクス 「晩期マルクス」とコミュニタリアニズム、そして宮澤賢治 (だるま舎叢書)

『甦るマルクス 「晩期マルクス」とコミュニタリアリズム、そして宮沢賢治』(社会評論社