CD「ジャズ 夏のはなしです」より
今回は次の2曲について
⑨ Soldier's Chorus 兵士の合唱・ 歌劇「ファアスト」 より ( C.F.Gounod )
/ Victor Male Chorus ・・・・・歌曲「角礫行進歌」
⑩ It's A Long Way to Tippiirery ティッペラリー ( J・Judge /H・Williams)
/ American Quartet ・・・・・童話「プランドン農学校の豚」
賢治は稗貫農学校(後の花巻農学校)の教員時期に学校の応援歌を何曲か残しています。その1曲が「角礫行進歌」です。その元歌は、グノー作曲の歌劇「ファスト」で歌われる「兵士の歌」Soldier'sChorus です。とても勇壮で、気品も感じられる曲調は当時の応援歌としては異質なものとしてとらえられたのでは?と思います。昨年の夏の甲子園で話題となった秋田・金足農業の応援団を見て、同じような雰囲気を醸し出していることに、どこか花巻農学校との共通点を感じてしまいました。
身近に音響の仕事をしているS君が、その花巻農学校の応援部だったと知ってびっくり。そのうち、20数年前に歌った応援歌をぜひ再現し聞かせてもらいたいものだと思っています。
角礫行進歌
やぶりてわれらはきたりぬ
かけすの
はがねは
(
原曲となっているグノー歌劇「ファスト」第4幕で歌われる「兵士の歌」の当時出ていたSPレコードは、
CD収録の Victor Male Chorus のほかに、The NewYork Grand Opera Chorus、 Arthur Pryor's Band による盤があります。
続いては, ♪ It's A Long way to Tipperary という歌。
この曲は、第一次世界大戦中に大ヒット。遥かな故郷を思う歌としていろいろな場面で歌われたといわれています。日本でも大正8年、9年ごろ、「チッペラリー」とか「チッペリー」「時局軍歌チッペラリー」「遥かなるチッペラリー」として、さらにコミック・ソングの替え歌として歌われたレコードまでさまざまな歌が発売になっています。
賢治作品に登場するのは、一つは大正11年の暮れから翌年夏ごろに書かれた童話「フランドン農学校の豚」。「白金豚」として重宝がられた豚も、挙句の果てには「お前とももうすぐお別れさ。グッバイ、ヨークシャイヤ」とこのチッペラリーの口笛のふしに乗せて歌われます。豚の死を宣告する歌として・・・・。
花巻にこの「白金豚」をブランドにした豚肉が人気を呼んでいます。なんでも、「ブランドン農学校の豚」に出てくる白金(プラチナ)と同等の価値があるヨークシャー種の豚に、ランドレース種、バークシャー種の3品種を掛け合わせ、飼育配合から出荷まで一貫体制で生産しているといいます。業務用専用で一般の小売は原則としてしていないそうですが、花巻市内の直営レストラン「ポパイ」ではその「白金豚」を使ったハンバーグを食べることができます。
ちょっと脱線してしまったけど・・・ついで話に。
本CDのジャケット・イラストレーションをお願いしている古山さんから、制作途中に突然メールが届き「そうだよこの曲、どっかで聞いたことがあると思っていたら、思い出したよ。戦争映画『Uボート』で歌われた歌だよ」。
調べてみると、この映画『Uボート』は1981年上映の第2次大戦を舞台にしたドイツの戦争映画で「劇中で2度に渡り流れる『遥かなるテイペラリー』(ティペラリー・ソング)は戦前戦中期に収録された音源ではなく、1956年にソビエト連邦の赤軍合唱団によって収録された物である。」とありました。
さらについで話ですが、この曲は現在でも「函館ラサール学園」の学生歌として歌われているのを偶然テレビで拝見しました。
本題に戻りますが、この曲が出てくるもう一つの賢治作品は劇「飢餓陣営」の幕開き。
賢治はこんな詞をつけました。
「私は五聯隊の古参の軍曹」
1、私は五聯隊の古参の軍曹
六月の九日に演習から帰り
班中を整理して眠りました
そのおしまいのあたりで夢を見ました
2、大将の勲章を部下が食うなんて
割合に適格なことでもありませんが
まる二日食事を取らなかったので
恐らくはこの変てこな夢をみたのです
あまりの空腹に、大将の勲章がバナナに見えて・・・こんな歌です。
「飢餓陣営」には ♪バナナン大将 という面白い歌もありますが、いずれ別な機会に・・・。
さらに賢治は生徒たちにこの歌を英語で教えて歌わせていたそうです。
♪ イッチャロングウェーチッペラリー イッチャロングウェーツーゴー
イッチャロングウェーチッペラリー ツーゼスィートガールアイノー
ほんとうに賢治っておもしろい!
さて、CDに収められた曲は、この後 ♪ 恋はやさし野辺の花よ と続きますが、この曲は「賢治と浅草オペラ」のお話のときに。 ・・・つづく