CD「ジャズ 夏のはなしです」収録曲について その3

 さて、今回は童話「セロ弾きのゴーシュ」に登場する曲についてスポットを当ててみます。CDに収録した曲は M7 Livery Stable Blues (邦題「馬小屋のブルース」)とM8 Hunting Tigers out in "India"(yah)(印度の虎狩り?)。

 

 物語の順番からいくと、ゴーシュが毎晩のようにチェロの練習をしていると現れる動物たち、最初にやってきたのは猫でした。

 猫は自分を癒してくれる曲を弾いてもらいたくてやってきた。

賢治は猫が望んだ曲の設定で、最終稿の「トロイメライ」に至るまで、最初はシューベルトの「アヴェマリア」、次にグノーの「アヴェマリア」。そして最終稿では「トロイメライ」になった。  

 それを、猫が“聴いてあげてもいいよ”という横柄な態度に怒り「印度の虎狩り」を威嚇するように弾く。その「インドの虎狩り」のヒントとなったのが、

♪ Hunting Tigers out in "India"(yah) ではないだろうかというのが定説になっています。  

その根拠としては、当時の岩手日報の広告欄にこのレコードが紹介されていたというのですが、それを見ていたとしても実際にそのレコードを聴いていたかは定かではありません。

  ♪「印度に虎狩りにですって」Hunting Tigers out in "India"(yah) / New Mayfair Dance Orchestra  蝶印レコード 128B 6inch 盤 オリジナル盤 Victer B-5936A f:id:destupargo:20190210161210j:plain 

 ♪ Hunting Tigers out in "India"(yah) を調べ、探してみると、英国でヒットしたノベルティ・ソング(コメディ・ソング)でいろいろなグループによるSPレコードが出ていることが分かりました。しかし、本命の New Mayfair Dance Orchestra の盤はなかなか出てきません。YOU TUBE にアップされている音源はあるのですが・・・・。

やっとのことで手に入れることができたのは、本CD収録の Leslie Sarony が歌っているものほか1枚。

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 さすがに佐藤泰平さん(「宮沢賢治の音楽」著者)。昨年出した7枚組のCD「宮沢賢治と音楽」には、触りですが本命盤の音源が収録されています。比較すると Leslie Sarony の演奏に比べてやや素朴な感じがして「セロ弾き・・」に登場してもまま違和感がない感じがする。いずれにしても、劇中最後、演奏会本番のアンコール曲としてゴーシュが演奏し、拍手喝采を浴びるほどの曲調であることを想像すると、曲名は「印度の虎狩り」であっても、曲の方はあくまでもヒントとしてとらえたほうが良いと思います。

 

 そして、その後に登場する子狸。

 狸の子が首にぶら下げて持ってきた楽譜を見てゴーシュは“「愉快な馬車屋」ってジャズか ”と云う。この曲のヒントになった曲が「Livery Stable Blues (邦題「馬小屋のブルース」)ではないかというのが私の説。

 その根拠は、Original Dixieland "Jass" Band が演奏したこの曲は、1917年全米で初めてレコード化されたジャズとして人気を集め100万枚の大ヒットとなったことで、日本にも情報が入ってきていたと思われる曲であるということ。さらに原題の Livery Stable とは、馬車の馬を待機させておく小屋(馬小屋)のことで、曲中には、馬のいななきや、劇中“子狸が演奏に合わせてチェロの駒の下の弦を太鼓のように 叩いてリズムをとる”ような大太鼓の音がフィーチャーされている愉快な曲であること。

 一方、佐藤泰平さんの説は、

J・ヒルトンとその管弦楽団が演奏する「 ♪ 愉快な牛乳屋」ではないかというもの。

 根拠としては、“1931年6月号「ビクター・レコード総目録」の広告に「印度に虎狩りにです って」と 「愉快な牛乳屋」の2曲が『六月には気も晴れ晴れするジャズを・・・』という同じ宣伝ページに載っていた”ということから、この二つの曲を見て、曲名からヒントを得たのではないだろうかという説です。

 どちらにしても、賢治がこれらの曲を実際に聴いていたかはわかりませんが、「愉快な牛乳屋」と「馬小屋のブルース」の曲名を掛け合わせて「愉快な馬車屋」にしたとも考えられます。

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 それにしても、クラシックのレコードについては、実際に持っていた、聴いていたという証拠・裏付けは結構あるのですが、こういったポピュラー・ソングのレコードの存在等の記録はほとんど残されていないのが不思議に思います。   つづく